マーケティングの仕事をしていると、人によって「マーケティング」の定義がバラバラであることを痛感します。私自身も、決して唯一絶対の定義があるとは思っていません。しかし、マーケティング・プランナーである私がマーケティングの定義を明確に説明できなければ、私は何をする人なのかを明確に説明できないことになってしまいます。
さすがにそれは困りますので、今回は、私なりの「マーケティングの定義」を解説します。
マーケティングの誤解
私なりのマーケティングの定義を示す前に、よくある “誤解” について触れておきます。(完全に「誤解」と言い切るのもよくないので、あくまで「私の定義とは異なるもの」とご理解ください)
市場調査・分析のこと?
正直、十数年前までは、私も「マーケティング≒市場調査・分析」だと認識していました。なぜなら、広告代理店やその他の大手企業において、「マーケティング部」の主な役割が、市場調査・分析であることが多かったからです。
プロモーションや広告のこと?
私の印象として、中小企業の経営者の方々は、「マーケティングとは、プロモーション(販売促進)や広告のこと」だと認識されていることが多くあります。もちろんそれらは、マーケティングの一部ですし、「狭義のマーケティング」という意味では、間違いでもないでしょう。しかし、本来のマーケティングとは、もっと広範のものだと思っています。
見込み顧客を獲得すること?
これは、『THE MODEL』という書籍の影響が少なくないと思うのですが、SNSなどを見ていると、スタートアップ企業を中心に、「マーケティング=見込み顧客の獲得」と認識されている印象があります。詳細は後述しますが、見込み顧客の獲得後に行う「営業」や「カスタマーサクセス」も、「マーケティング」の一部だと私は考えています。
経営そのもの?
著名なマーケターをはじめ、「マーケティングとは、経営そのものだ」とおっしゃる方々も少なくありません。例えば、ファミリーマートのCMO・足立光さんは、著書『「劇薬」の仕事術』の中で、 ラクスルのCMO・田部正樹さんも『「指名検索」マーケティング』の中で、そのように発言されています。マーケティングの重要度を理解してもらうためには、ある意味適切な表現だと思います。しかし、マーケティングの定義を正確に説明するうえでは、さすがに広すぎるようにも感じてしまいます。
私なりのマーケティングの定義
では、私はマーケティングをどう捉えているのか? 私が考える「マーケティングの定義」は、以下の通りです。
マーケティングとは、特定の人たちが価格と同等以上の価値を感じる商品やサービスを生み出し、その人たちにその商品やサービスの存在を知ってもらい、価値を正しく知覚してもらって、それを選んでもらい、さらにその価値を実感してもらうことによって、中長期的な営業利益を拡大する活動全般のことである。
はい、長いですよね。わかりにくいですよね。わかります。
ですが、「マーケティング」という言葉の意味を、「マーケティングではないもの」を排除しながら、網羅的かつ具体的に表現するには、このような形になるのです。そして、この定義には、マーケティングの重要なエッセンスが詰め込まれていると私は思っています。(詳しくは後述します)
マーケティングの範囲
長ったらしい言葉の定義では、そもそも何がマーケティングなのか、直感的にわかりにくいのは事実だと思います。そこで、先程の定義の解説をする前に、まずはどこからどこまでがマーケティングなのか、その「範囲」を図解することで、マーケティングの定義を説明してみたいと思います。
マーケティングの範囲を説明するうえで、私がもっとも参考になると考えているのが、日本を代表するマーケター・森岡毅さんの著書『マーケティングとは「組織革命」である。』の中にある以下の部分です。
ビジネスを行う目的で編成される組織においては、主な機能はたった〝4つ〟しかないと私は考えています。(中略)その4つとは、マーケティング機能、ファイナンス機能、生産マネジメント機能、組織マネジメント機能です。
これを私なりに図解したのが下図です。

そしてこの図をもとに、マーケティングの範囲を説明すると、以下のようになります。こちらほうが、前述の定義よりも、マーケティングとは何なのか、わかりやすいのではないでしょうか。
マーケティングとは、経営からファイナンス・生産マネジメント・組織マネジメントを除いたものである。
ちなみに、前述の足立光さんも、Agenda noteの記事の中では、“社長業からバックオフィス業務を除いた「すべて」が実はマーケティングの仕事” とおっしゃっています。
マーケティングの中身
マーケティングの「範囲」はわかったと思いますので、今度は、その「中身」を見ていきます。ここで登場するのが、有名な「マーケティングの4P」。Product(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)です。

ただし、4つ目の「Promotion」に関しては、プロモーション(販売促進)だけに限定してしまうと、範囲が狭くなり、マーケティングのすべてを網羅できないため、私は「Communication(コミュニケーション)」と置き換えるようにしています。
次に、その「Communication」の中身を見ていくと、そこにはさまざまな施策が含まれています。テレビCMなどの広告はもちろん、WebサイトやSNS、営業、接客にいたるまで、消費者となんらかの「コミュニケーション」が行われるすべての接点が含まれるのです。

ちなみに、『THE MODEL』的な分類で考えると、「営業もマーケティングの一部なのか?」という疑問が生じるかもしれません。しかし、マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラーは、『マーケティング・マネジメント』の中で、以下のように語っています。
経営的な定義では、マーケティングは「製品を売り込む技術」とされることが多かったが、マーケティングの最も重要な部分がセリングではないと聞くと人々は一様に驚く。セリングはマーケティングという氷山の一角にすぎない。
この文の趣旨とは異なりますが、セリング(営業)は、紛れもなくマーケティングの一部であり、むしろ、元をたどれば、営業こそがマーケティングの中心だったのです。
ちなみに、先ほどの図の中では、コミュニケーション施策を「オフライン」と「オンライン」に分けていますが、本質的には分ける必要はないと考えています。しかし、「Webマーケティングとは何か」を説明するうえでは、このほうが都合がよいので、あえてそうしています。つまり、「Webマーケティングとは、マーケティングの中のコミュニケーションの施策うち、オンラインで行われるもの」といえるのです。
マーケティングの目的
マーケティングとは何かをさらに深く理解するには、マーケティングの「目的」を明確にすることも重要です。なぜなら、目的が明確でないと、「良いマーケティング」と「悪いマーケティング」を選別できないからです。
再度、コトラーの『マーケティング・マネジメント』からの引用です。
マーケティングを最も短い言葉で定義すれば「ニーズに応えて利益を上げること」となろう。
シンプルですが、目的が明確に示されています。マーケティングの最終目的は「利益の拡大」なのです。ここで大切なのは、「売上の拡大」ではないこと。当然ですが、たとえ売上が上がっても、利益がなく赤字が続けば、ビジネスは継続できません。だから、「利益」が最重要であり、「利益の拡大」をマーケティングの目的とすべきなのです。(売上が重要ではないという意味ではありません)
では、ここでいう「利益」とは、「売上総利益」なのか、「営業利益」なのか、「経常利益」なのか、「純利益」なのか。

まず、「経常利益」と「純利益」について考えますが、これらの拡大を目的とする場合、利益を増やすことと同時に、「営業外損益」や「特別損益・税金」の費用を減らすことが求められます。しかしこれらは、前述した「マーケティングの範囲」で考えると、マーケティングの領域外といえます。つまり、これらを減らす活動はマーケティング活動ではないため、マーケティングの目的が「経常利益」や「純利益」にはなり得ません。
では、「売上総利益」か、「営業利益」か。ポイントは、広告費などのマーケティング費用も含まれる「販管費」です。
仮に、マーケティング費用の予算を社長が独断で決定し、マーケティング担当者は、その費用の中でマーケティング活動を行うという前提であれば、「売上総利益」を増やすことに集中すればよく、マーケティングの目的は「売上総利益の拡大」ということになります。
しかし私は、適切なマーケティング費用の予算を見極める(社長に進言する)のもまた、マーケティング担当者の役割であり、できるだけマーケティング費用を抑えながら、成果を最大化することがマーケティング担当者には求められていると考えています。そのため、マーケティングの目的は「営業利益の拡大」であると思うのです。
さらに付け加えると、一発花火で一時的に営業利益が上がったとしても、それが継続されなければ、やはりビジネスとしては成り立ちません。ですので、「私なりのマーケティングの定義」にも記した通り、マーケティングの目的は「中長期的な営業利益の拡大」でなければならないのです。(補足:中長期的な営業利益の拡大は、マーケティングのKGIであり、個別のマーケティング施策のKPIではありません)
私なりのマーケティングの定義の解説
ここまでの説明でも十分、マーケティングとは何なのかを理解できたと思います。ですが最後に、前述した「私なりのマーケティングの定義」の解説を改めてさせてください。
マーケティングとは、特定の人たちが価格と同等以上の価値を感じる商品やサービスを生み出し、その人たちにその商品やサービスの存在を知ってもらい、価値を正しく知覚してもらって、それを選んでもらい、さらにその価値を実感してもらうことによって、中長期的な営業利益を拡大する活動全般のことである。
この定義では、マーケティングの目的を明確にしたうえで、「マーケティングではないもの」を排除しつつ、網羅的かつできるだけ具体的に、マーケティングという言葉の意味を表現しました。
「特定の人たちが価格と同等以上の価値を感じる商品やサービスを生み出し」
まずこの部分は、マーケティングの4Pのうち、「PRODUCT」と「PRICE」のことを表しています。「特定の人たち」と書いたのは、マーケティング戦略を考えるうえでは、「ターゲット顧客」を明確にすることが不可欠だからです。
「その人たちにその商品やサービスの存在を知ってもらい、価値を正しく知覚してもらって」
これはもちろん、「COMMUNICATION」のことです。ポイントは、「認知」してもらうだけでなく、商品・サービスの「価値」を正しく知ってもらう必要があることです。ちなみに、この知覚された価値のことを「ブランド」といいます。
「それを選んでもらい」
たとえその商品やサービスを欲しいと思ってもらえても、実際にそれが購入できる状態でなければなりません。これは、マーケティングの4Pの「PLACE」です。また、この部分を「それを買ってもらい」とせずに、「それを選んでもらい」としたのは、マーケティングでは常に、比較検討される「競合」を意識する必要があるからです。
「さらにその価値を実感してもらうことにより」
マーケティングは買ってもらったら終わりではありません。購入した商品やサービスを「リピート」してもらうこと、良質な「クチコミ」を生み出すことが重要です。一度選んでもらっても、その商品やサービスの体験が悪く、価値を実感できなければ、リピートされることはなく、悪いクチコミが生まれ、ビジネスにはむしろ悪影響を与えてしまいます。
「中長期的な営業利益を拡大するための活動全般」
これはすでに説明した通り、マーケティングの目的を明示しています。
確かに少し長い定義ではありますが、これは、日々マーケティングと向き合う私が重要だと感じるエッセンスを詰め込んだ結果でもあります。この定義さえあれば、マーケティングとは何なのか、何が重要で、何をすべきなのかをきちんと説明できると考えています。
ひと言でいえば?
とはいえ、残念ながら、あまりに長い定義は覚えられないと思います。では、あえてひと言でいえば、何なのか。
コトラーの “ニーズに応えて利益を上げること” も、本質的ではありますが、いまいちピンとくるものではないかもしれません。
ちなみに、前述の森岡毅さんは、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』の中で “マーケティングの本質とは「売れる仕組みを作ること」です” と書かれています。森岡さんに限らず、「マーケティングとは売れる仕組みづくりだ」とおっしゃる方は少なくありません。
ただ私は、マーケティングの目的を「中長期的な」営業利益の拡大としていますので、あえてひと言でいえば、「マーケティングとは、売れ続ける仕組みづくり」なのかなと思っています。