マーケティングを行ううえで、「戦略」と「戦術」、どちらがより重要かわかりますか?
もし、この質問に対する答えを本質的に理解していないとしたら、貴重なマーケティング予算を無駄にするだけでなく、自社にとって大きなマイナスの影響を与えかねません。
「戦略」と「戦術」の違い
そもそも「戦略」と「戦術」の違いは何でしょうか。ごっちゃになってしまっている人も少なくないと思います。
私は、この2つを以下のように定義しています。
戦略:目的を達成するための大局的な計画。
戦術:戦略を実行するときに用いる個別の手段。
たとえば、「新商品の販売数を増やす」という目的があるとします。このとき、「広く認知を取りにいく」などの“大局的な計画”が、いわゆる「戦略」に当たります。全体的な“方針”や“方向性”と言い換えてもいいでしょう。
それに対し、認知度を上げるための“手段”として「TVCMを打つ」という選択をすれば、それが「戦術」に当たります。
「戦略」と「戦術」、どちらが大切?
では、この「戦略」と「戦術」、ビジネスやマーケティングを行ううえで、どちらがより大切だと思いますか?
この問いに対する答えは、日本を代表するマーケター・森岡毅さんの著書『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』でとてもわかりやすく解説されていますので、ここで紹介させていただきます。
ポイントは、戦略か戦術の2択ではなく、下記の4択で考えることです。

この4つを「結果が良い」と思う順番に並べて見てください。
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シンキングタイム!
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【答え】

いかがですか? 正解できましたか?
「A」が1番というのは疑う余地もありませんが、次点を「B:良い戦略+悪い戦術」と「D:悪い戦略+良い戦術」で迷った人が多いのではないでしょうか。
ですが、意外にも「D」は“最悪”。
私も最初にこの本を読んだとき、答えは「A→B→D→C」だと思ってしまいました。
なぜ、戦略は悪くても戦術が良い「D」より、戦略も戦術も悪い「C」のほうが“マシ”なのでしょうか?
戦略のミスは戦術では補えない
くだんの本では、秀逸なたとえとともに解説されています。
まず、「大阪のUSJから東京のTDR(※正しくは千葉)まで行く」という目的があるとします。このときのA〜Dをあらわしたのが下図です。

戦略も戦術も良いAは、「正しい方向(良い戦略)」に「飛行機という最適な手段(良い戦術)」で向かったので、TDRに行くという目的を達成できました。しかしBは、正しい方向に向かったものの、「自転車という不適切な手段(悪い戦術)」を選択したため、TDRには到着できませんでした。しかし、TDRに近づいたという意味で“次善”といえます。
問題は戦略が悪かったCとD。
ここでいう「戦略が悪い」とは、間違った方向(たとえば香港ディズニー)に向かうことを意味します。戦略も戦術も悪いDは、方向が間違っていたものの、戦術も悪かった(自転車で向かった)ため、元にいた場所からあまり離れていません。これなら、今からでもリカバリーが可能です。
しかし、Dはどうでしょうか。間違った方向に向かったのはCと同じですが、戦術が良かった(飛行機で向かった)ため、香港ディズニーに到着してしまっています…。目指した場所はおろか、元にいた場所からも、激しく離れてしまっているのです。
“つまり戦略の方が戦術よりも大事なのです。戦略の大きなミスは戦術ではリカバリーできないからです”
森岡 毅『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』
そう、向かう方向(戦略)が間違っていたら、どんな手段(戦術)を選択しても、どれだけ必死に頑張っても、目的地に近づくことはできないのです。
私はこの本を初めて読んだとき、あまりの説得力に心から感動したことを覚えています。
戦略がより重要になっていく
ここまで読んでいただいたのであれば、いかに「戦略」が重要かお分かりいただけたと思います。
でも残念なことに、マーケティングの世界では、「戦略」がなおざりになってしまっているケースが少なくありません。「戦略が悪い」というより、そもそも「戦略がない」のです。
議論されるのは、なぜか「戦術」ばかり。あくまで“手段”でしかない戦術が、いつの間にか“目的”にすり替わっていることもあります。
「SNSをやろう!」
「動画を作ろう!」
「ホームページをリニューアルしよう! 」
「これからはオウンドメディアだ!」
それ、ぜんぶ「戦術」の話です。
市場自体が伸びていた時代、そもそも取りうる戦術が限られていた時代には、戦略がなくてもどうにかなったのかもしれません。しかし、戦術が無数にある今、そもそもの戦略を大きく間違えば致命傷にもなりかねません。
では、マーケティングの戦略はどのように考えるべきか。
それを語り出すとものすごく長くなってしまうので、また別の機会に書きたいと思います。
ひとまず今日は、「戦略の大きなミスは戦術ではリカバリーできない」というビジネスの大原則だけ、覚えておいていただければ幸いです。