2021/02/08

「差別化」の落とし穴を回避する4つの質問

山下侑一郎

山下 侑一郎

2021/02/08

「差別化」の落とし穴を回避する4つの質問

山下侑一郎

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2021/02/08

「差別化」の落とし穴を回避する4つの質問

山下侑一郎

山下 侑一郎

「その商品/サービスに差別化ポイントはありますか?」

中小企業の経営者の方々にそう質問すると、大抵は「あります」という答えが返ってきます。しかし、その内容を聞くと、「誤った差別化」 であることが少なくありません。

そこで今回は、中小企業の経営者が陥りがちな差別化の落とし穴と、それを回避するための方法を紹介したいと思います。

差別化の目的は?

規模の大小に関わらず、経営者であれば、差別化ポイントの重要性は十分に認識されていると思います。インターネットでなんでも比較検討される時代ですので、競合商品・競合サービスとの差別化を図ることは極めて重要なマーケティング戦略だと言えます。

しかし、その重要性のみが独り歩きした結果、差別化ポイントを作ること自体が目的化してしまい、本来の目的が果たされれず、「落とし穴」に陥っているケースが少なくないのです。

差別化の本来の目的は、競争上の強い優位性を築くことです。この目的が達成できないのであれば、「良い差別化」とは言えません。

ではどうすれば、「落とし穴」 を回避し、「良い差別化」を図ることができるのでしょうか?

必要なのは、以下の4つの質問です。これら4つの質問の答えがすべてYESであれば、「落とし穴」を回避し、強い優位性を築く「良い差別化」を図ることができるでしょう。

質問1:競合と本当に比較検討されていますか?

「差別化」と言うからには、その比較対象となる「競合商品/競合サービス」があるはずです。

ここで重要なのは、消費者(ターゲット顧客)が本当にその競合商品と自社の商品を比較検討しているかどうかです。言い換えると、購入する際に、どちらか(あるいは、いずれか)を選ぶという選択行為を行っているか、ということです。

わかりやすい例を出します。(*1)

大阪にあるテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」はもともと、映画のテーマパークでした。今でも映画が軸になっているとは思いますが、以前は「映画のみに特化」していて、それこそが、東京ディズニーランドに対抗する差別化戦略だと考えられていました。

しかしそもそも、「USJ」と「ディズニーランド」は、比較検討されるのでしょうか?

「今度の連休、USJとディズニーランド、どっちに行く?」みたいな会話は自然なのか、ということです。もちろん、答えはNOです。関西にあるUSJと関東にあるディズニーランドでは、同じテーマパークというカテゴリーでも、基本的には商圏が異なるからです。

実際に、USJが「映画だけ」にこだわることを止めたことでV字回復を果たしたことも、それが「無意味な差別化」だったことを物語っています。

商品やサービスが同じカテゴリーだからといって、必ずしも「競合」とは限りません。そして、比較検討されない “競合商品” と差別化を図るのは、正直に言って無意味なことです。

つまり、比較検討される商品・サービスがないのであれば、あるいは、消費者が購買行動の中で比較検討を行わない商品なのであれば、「差別化」自体が必要ないということです。

質問2:その「差」は本当に存在しますか?

この質問で回避できるのは、「思い込み」という落とし穴です。

なんだそんなことかと思うかもしれませんが、この落とし穴に陥っているケースが意外と少なくないのです。

これは、1990年代の紙おむつ業界の話です。(*2)

業界トップシェア、P&Gのパンパースは、「(尿が)漏れない」という商品特長をずっと訴求し続けていました。しかし、当時すでに、どこのメーカーの紙おむつも、尿の漏れ自体には、大きな機能差がありませんでした。つまり、「漏れない」という特長は、差別化ポイントとしては機能していなかったということです。

そんな中、業界2位のムーニーは「コンパクト(場所を取らない)」、3位のメリーズは「肌にやさしい」という訴求を開始。その結果パンパースは、ムーニーとメリーズに大きくシェアを奪われてしまったそうです。

こういうケースは、P&Gのような大手だけでなく、中小企業でもよく見られます。

普段から競合の動向を注視していないと、あると思っていた「差(違い)」がいつの間にかなくなっていたり、そもそも最初から存在していなかったり、という「思い込み」が発生してしまうのです。

また、仮に「差」があるとしても、それを消費者が知覚できなければ意味がありません。

例えば自動車メーカーで、競合の車と燃費を比較したときに、その差がわずか「0.5km/L」だったとしたら、それは差別化ポイントとして機能しないでしょう。また、食品や飲食店における「体にいい」のような、実態として知覚しにくい違いの場合は、消費者が「確かにそうだね」と思える納得感があるかどうかも重要なポイントです。

差別化ポイントは、消費者が知覚して、納得できる「差(違い)」でなければ、それはないのと同じだと思ったほうがいいでしょう。

質問3:それは競合ではなく自社商品を選ぶ理由になりますか?

実はこれが、もっとも重要な質問です。

前述した通り、差別化の目的は、競争上の優位性を作ることです。

しかし、差別化自体が目的化して、無理に作り出された「違い」は、ターゲット顧客にとってなんの意味も持たない可能性があります。

ターゲット顧客が競合商品と比較検討したときに、自社を選ぶ理由になるものだけが、差別化ポイントとして機能し、競争上の優位性を築くことができるのです。

もし「選ぶ理由」にならないのであれば、あなたが “差別化ポイント” と言っているものは、「単なる違い」でしかありません。

どんな違いであれば、競合商品ではなく自社商品を選ぶ理由になるのか?

「差別化」と言うと、どうしても競合ばかりに目を向け、どう「違い」を作るのかばかりに囚われてしまう人がいます。しかし、もっとも重要なのは「顧客視点」で考えることです。競合調査も大切ですが、何よりもまず、顧客理解を優先するようにしましょう。

質問4:それは競合が容易には真似できないものですか?

質問3までクリアできれば、競争上の「優位性」を作ることは可能です。

しかし、この最後の質問にYESと答えられないのであれば、つまり、競合が容易に真似できるものなのだとしたら、残念ながらそれは「弱い優位性」です。「一時的な優位性」と言ってもいいでしょう。

ターゲット顧客が競合商品と比較検討したときに、自社を選ぶ理由になり、かつ、競合が容易には真似できないものこそが「強い優位性」であり、「良い差別化」なのです。

これをクリアするのは簡単ではありません。しかしこれができれば、差別化ポイントは、競合との「比較要素」という域を抜け出し、自社の「独自性」として、強い力を発揮するようになります。逆にこれができなければ、競争の激しい今の世の中で、中長期的に成長し続けることは難しいとも言えます。

差別化ポイントと類似化ポイント

「差別化ポイント」について考えるのであれば、併せて「類似化ポイント」についても考えることをおすすめします。

類似化ポイントとは、要するに「競合と同じ点」です。差別化では、「違う点」を作るのに対し、類似化では、「同じ点」を作るのです。

なぜ「類似化」が重要かというと、理由は2つあります。(*3)

ひとつは、ターゲット顧客にとっての「必要条件」を満たすためです。

どんな商品でも、比較検討をする際には、最低限満たしておいてもらわないと困る条件があります。それをクリアしていないと、いくら差別化ポイントがあったとしても、比較検討の前に “足切り” されてしまいます。差別化ポイントを考える前に、まずは比較検討される土俵に上がることを優先するようにしましょう。

もうひとつの理由は、競合の差別化ポイントを類似化することで、競合の優位性を消すことができるからです。

質問3の解説で、競合から容易に真似される違いは「弱い優位性」だと言いましたが、その「弱い優位性」を無くしてしまうのです。そうしたうえで差別化ポイントを作ることができれば、自社の優位性はさらに高まることでしょう。

類似化ポイントは、差別化ポイントほど有名な概念ではありませんが、場合によっては、差別化ポイントよりも重要な役割を果たします。ぜひ覚えておいてください。

「差別化」だけが戦略ではない

最後に少し補足させてください。

中小企業のマーケティング戦略において、「差別化」はとても重要な戦略です。しかし、唯一絶対の戦略ではありません。

差別化の目的は、競争上の優位性を築くことだと書きました。これは裏を返せば、「競合と同じ市場で競争する」ことを前提とした戦略なのです。つまり、「競合と競争しない」という戦略の選択肢もあるということです。

これについては、話せばまた長くなりますので、別の機会にさせてください。

まとめ

「差別化」に潜む落とし穴、そして「類似化」の重要性について、ご理解いただけましたでしょうか。

落とし穴を回避する質問をまとめると、下図のようになります。

まとめると、競合と比較検討される商品において、確かな差(違い)が存在し、その差が競合商品ではなく自社商品を選ぶ理由になり、かつ、競合が容易に真似できないものであるとき、初めてそれは「良い差別化」だと言えるのです。

自社の “差別化ポイント” が、競争上の優位性を築くうえで、本当に意味のあるものなのかどうか、ぜひ一度、立ち止まって考えてみてください。

私が提供している「Webマーケティング支援サービス」では、差別化ポイントを含むマーケティング戦略の設計からサポートさせていただいております。ご興味のある方は、ぜひサービス概要をご覧ください。

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参考書籍
*1 森岡 毅 『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』
*2 足立 光 , 土合 朋宏 『「あなたの知らない」マーケティング大原則』
*3 ケビン・レーン・ケラー 『戦略的ブランド・マネジメント 第3版』

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山下侑一郎
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福岡在住。フリーランスのマーケティング・プランナー。 広告会社「アサツー ディ・ケイ」を2018年に退社後、独立。現在は福岡の中小企業を対象に、Webマーケティング支援事業を行う。